大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(ワ)10215号 判決

原告 株式会社日産クレジット

右代表者代表取締役 青木秀朗

右訴訟代理人弁護士 大須賀忠雄

同 中村眞一

被告 大東京火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 瀬下明

右訴訟代理人弁護士 江口保夫

同 江口美葆子

同 豊吉彬

右訴訟復代理人弁護士 中村威彦

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一億五〇〇〇万円及びこれに対する平成三年四月二三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、訴外穂高建設株式会社(以下「穂高建設」という。)との間の立替払委託契約に基づき、被告に対して、被告と穂高建設との間の損害保険契約にかかる一時払保険料一億五〇〇〇万円を立替払したという事実関係のもとに、原告が、被告に対し、<1>右損害保険契約は付保物件が存在しないから無効であり、かつ、立替払委託契約も原告担当者の無権代理行為によるもので無効であるなどとして、不当利得返還請求権に基づき、立替払金の返還及び立替払の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による利息の支払を求め、又は、<2>被告の行為は、原、被告間の提携ローン協定違反(債務不履行)ないし不法行為に当たるとして、右立替払金相当額の損害賠償及び立替払の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠を掲記したところ以外は、当事者間に争いがない。)

1  当事者等

(一) 原告は、顧客の加盟店に対する商品購入代金等を立替払すること等を目的とする株式会社であり、森口房好(以下「森口」という。)は同社の大阪営業所の所長代理であった者である。

(二) 被告は、保険業を営むことを目的とする株式会社である。

(三) 原告は、損害保険会社と損害保険契約を締結する顧客の委託を受けて、損害保険会社に一時払保険料を立替払するニッサンパックローンという名称のクレジット商品を取り扱っており、被告との間でも、昭和五八年六月一日、基本協定(ニッサンパックローン協定)を締結し、右商品の取扱を開始した。

また、原告には、保険契約者の委託を受けて、損害保険会社に一時払保険料を立替払することと損害保険会社が保険契約者に契約者貸付けをすることを組み合わせた「フラワープラン」という名称のクレジット商品もあった。

2  本件保険契約の締結

(一) 被告は、穂高建設との間で、次のとおり、損害保険契約を締結した(乙第一号証、第二号証の一及び二。以下「本件保険契約」という。)。

(1)  契約日 平成三年四月二二日

(2)  保険種目 長期総合保険 一時払契約

(3)  付保物件 大阪府堺市大町西一丁二-三一ないし三四(以下「本件土地」という。)所在の鉄骨モルタル陸屋根地上八階建共同住宅床面積七二六六平方メートル

(4)  保険金額 金一五億八四〇〇万円

(5)  一時払保険料 金一億五〇〇二万〇六四〇円

(6)  保険期間 平成三年四月二二日から平成六年四月二二日まで三年間

なお、被告における本件の担当者は、当時、被告の公務営業部営業第一課課長代理であった小川祥二(以下「小川」という。)であり、本件保険契約の代理店業務を行ったのは、木岡利仁(以下「木岡」という。)である。

(二) 本件保険契約締結当時、本件土地上には、丸芳荘という木造二階建の旅館が存在するのみで、前記(一)の(3) 記載の八階建共同住宅は存在しなかった。

3  本件立替払契約の締結

原告の森口は、平成三年四月二二日ころ、穂高建設との間で、原告が、本件保険契約の一時払保険料(以下「本件一時払保険料」という。)の一部である金一億五〇〇〇万円(以下「本件立替払金」という。)について立替払をし、立替払の手数料は金七三五〇万円とする旨の約定で、立替払委託契約を締結した(以下「本件立替払契約」という。)。

右同日、原告は、被告に対し、金一億五〇〇〇万円を支払った。

4  本件契約者貸付けの実行

被告は、平成三年四月二五日、穂高建設に対し、本件保険契約に基づき、金一億一二〇〇万円の契約者貸付け(以下「本件契約者貸付け」という。)を行った。

5  本件保険契約の解約

穂高建設は、被告に対し、本件保険契約の解約をしたい旨申し入れ、同年一一月一二日付で本件保険契約が解約された。

6  穂高建設は、原告に対し、本件立替払契約に基づき、立替払手数料のうち金一二二万五〇〇〇円を支払ったが、その余の手数料の支払及び立替払金の返済をしなかった(甲第九、第一〇号証及び弁論の全趣旨)。

二  争点

1  被告は、原告に対し、本件立替払金一億五〇〇〇万円について、不当利得返還義務を負うか否か。

(原告の主張)

本件保険契約及び本件立替払契約は、いずれも無効であるから、被告は、本件立替払金相当額について、原告に対し不当利得返還義務を負う。

(一) 本件保険契約の無効

本件保険契約は、以下(1) ないし(3) のとおり、無効である。

(1)  公序良俗違反

損害保険は、偶然に損害が発生した場合にその損害を填補することを目的とした制度であるから、被保険利益は、不法な利益でないこと及び確実な利益であることなどが要請され、また、保険金額は、客観的に公正かつ妥当な金額であることが要請される。そして、保険契約がその目的、方法、内容において保険制度の持つ社会的意義から逸脱した場合には、当該保険契約は、公序良俗違反(民法九〇条)により無効となるところ、本件保険契約は、以下に述べるとおり、その目的、方法、内容において異常な保険契約であり、保険制度の社会的意義から逸脱しているから、公序良俗に違反しており、無効である。

(イ) 目的の不法性

本件保険契約の目的は、損害の填補ではなく、保険契約者である穂高建設が、被告の契約者貸付け制度を利用することにより、早期に高額の融資を受けることにあったのであり、そのような目的は、保険制度の社会的意義から逸脱しており、不法なものである。

(ロ) 契約締結方法の違法性(行政法規違反)

本件においては、手元資金の乏しい穂高建設と被告が、原告の立替払制度を利用して本件保険契約を締結した直後に、穂高建設が被告から契約者貸付けを受けている。これは、当時の大蔵省の不動産融資規制通達を潜脱し、保険業界の自主規制であるダブルローンの実行禁止、積立型保険の法人契約の引受禁止にも抵触している。さらに、本件保険契約の勧誘目的が、契約者貸付け制度を利用した融資にあることから、その募集方法は、保険募集の取締に関する法律第一二条及び第一六条に抵触するおそれが高い。

(ハ) 内容の異常性

本件保険契約は、後記(2) で述べるとおり、異常な内容の契約である。これは、被告が穂高建設に対し、高額な契約者貸付けをするため、高額な保険金額を設定して、一時払保険料を高額にする必要があったからである。

(2)  商法違反

(イ) 架空保険

保険契約には被保険利益が必要であり、被保険利益のない保険契約は、保険制度の社会的意義に反し、当然に無効である。

本件保険契約の付保物件の所在地とされた本件土地には、付保物件(八階建共同住宅)は存在しないから、本件保険契約は、架空保険であり、被保険利益がなく、無効である。

(ロ) 第三者所有物件に対する保険

仮に、本件保険契約の付保物件が丸芳荘であるとしても、丸芳荘の所有者は、保険契約者である穂高建設ではなく全くの第三者である。したがって、その所有者の委任を受けずに、かつ、所有者に告げないで丸芳荘を付保物件としたことは、被保険利益である所有者利益がない保険契約を締結したものであるから、本件保険契約は、商法六四八条により無効である。

(ハ) 超過保険

仮に、本件保険契約の付保物件が丸芳荘であるとしても、その被保険利益は、金七三〇〇万円に過ぎないから、少なくとも超過部分については、被保険利益がなく、商法六三一条により、無効である。

(3)  保険契約の無効は、絶対的無効であるから、原告は、本件保険契約の無効を主張し得る。そうでないとしても、原告は、一時払保険料の立替払者として、本件保険契約の有効・無効について、直接の利害関係を有しているから、これを主張する法律上の地位を有している。

(二) 本件立替払契約の無効

本件立替払契約は、以下(1) ないし(3) のとおり、無効である。

(1)  無権代理

森口は、原告の大阪営業所の所長代理であり、原告の決裁権限規定によれば、社長の決裁を受けることなく、本件立替払契約を締結する権限はなかったから、本件立替払契約は、無権代理により締結されたものであり、無効である。

(2)  要素の錯誤

本件立替払契約は、被告と穂高建設との間の保険契約が有効・適正であることが前提となっており、穂高建設が有効に保険料の支払義務を負うことは、本件立替払契約の要素である。

また、本件立替払契約は、本件保険契約にかかる満期返戻金ないし無効・解約返戻金等(以下まとめて「返戻金」という。)に、原告が、債権保全措置として第一順位の質権を設定することが前提であり、質権が設定されることは本件立替払契約の要素である。

原告は、本件保険契約が有効・適正であり、かつ、返戻金に質権を設定できるものと信じて本件立替払契約を締結したが、実際には、本件保険契約は無効であり、また、本件保険契約は、被告が穂高建設に対し契約者貸付けを行うことを目的としていたため、原告が返戻金に質権を設定することはできなかった。

よって、原告には、本件立替払契約について要素の錯誤があるから、本件立替払契約は無効である。

(3)  本件保険契約の無効による本件立替払契約の無効

(イ) 立替払委託契約は、代位弁済契約の性格を持つ準委任契約であるところ、本件保険契約の無効により、原告が代位弁済すべき顧客の債務が存在しない場合には、代位弁済の対象がないことになるから、本件立替払契約は、原始的に無効となる。

(ロ) そうでないとしても、本件保険契約と本件立替払契約には、以下<1>ないし<3>のとおり、発生上の牽連性があるから、本件保険契約が無効である場合には、本件立替払契約もまた無効である。

<1> 当事者の意思による牽連性

一般に、保険会社が、クレジット会社が一時払保険料の立替払を承認することを条件として保険契約を成立させた場合、保険会社は、クレジット会社に対し、直接一時払保険料の支払を請求する権利を取得し、他方、保険契約者に対しては保険料の支払を請求できなくなることを承認したといえる。そして、クレジット会社が、一時払保険料の立替払を承認した場合、保険契約者は、保険会社に対し、クレジット会社をして保険料を支払わせる義務を負い、他方、クレジット会社は、保険会社に対して、直接一時払保険料を支払う義務を負うことを承認したといえる。また、立替払委託契約の締結により、クレジット会社は、保険契約者に対し、立替金を保険会社に支払う義務を負い、これを履行することを条件に立替金返還債権を取得し、他方、保険契約者は、クレジット会社に対して保険料を立替払させる請求権を取得し、これを履行された後は、立替払金について償還義務を負う。

以上により、保険料の支払について立替払委託契約を締結し、かつ、保険契約を締結した場合には、いずれの当事者も、二つの契約が法的に関連した関係にあることを承知していることになる。

したがって、本件においても、原告、被告及び穂高建設は、本件保険契約と本件立替払契約が関連した契約であることを承知していたことになり、このような当事者の意思に従えば、右二つの契約には発生上の牽連関係があるから、本件保険契約が無効であることにより、本件立替払契約もまた無効であるといえる。

<2> ニッサンパックローン協定に基づく牽連性

そして、仮に右<1>が認められないとしても、原告と被告は、ニッサンパックローン協定の締結により、継続的に保険料の提携ローン取引を行うという合意をしており、同協定により、原告及び被告は、保険契約の成立と立替払委託契約の成立とは互いに牽連しているという認識を有していた。

本件保険契約及び本件立替払契約は、ニッサンパックローン協定に基づく契約である。したがって、同協定により、原告と被告との間には、保険契約が無効である場合には、立替払委託契約もまた無効とするという合意があったといえる。

仮に、本件保険契約及び本件立替払契約が、ニッサンパックローンではないとしても、原告が被告に対して一時払保険料を立替払するという点においては、ニッサンパックローンと同一であるから、本件においては、ニッサンパックローン協定が類推適用されるべきである。よって、この場合においても、右と同様に、本件保険契約と本件立替払契約には、発生上の牽連関係が認められる。

(三) 原告の損失と被告の利得

原告は、被告に対し、無効な本件立替払委託契約に基づき、本件保険契約に係わる一時払保険料一億五〇〇〇万円を支払い、右同額の損失を被った。

被告は、原告から右一億五〇〇〇万円を無効な本件保険契約に係わる保険料として受領した。

なお、右利得について、被告は、穂高建設に対し、契約者貸付けを行っているが、契約者貸付けは保険契約と別個独立の法律行為であるから、被告の利得から契約者貸付金を控除することは許されない。

(四) そして、本件保険契約と本件立替払契約との間には、発生上の牽連関係があるから、原告は、被告との間の直接の権利義務関係に基づいて一時払保険料を支払ったものといえる。したがって、右(三)の被告の利得と原告の損失との間には因果関係がある。

そうでないとしても、給付利得については、契約関係があるか否かにかかわらず、給付当事者間における利得の返還請求が認められるべきであるから、本件においては、一時払保険料の給付当事者である原告と被告との間において、現状回復を認めるべきである。

(五) 被告は、本件保険契約が無効であることを認識していた(被告の悪意)。

以上によれば、被告には、不当利得返還義務があり、原告に対し、本件一時払保険料金一億五〇〇〇万円相当額及び立替払の日の翌日である平成三年四月二三日から年六分の割合による金員を支払う義務がある。

(被告の主張)

(一) 本件保険契約の無効の主張について

(1)  本件保険契約及び本件立替払契約は、原告の立替金返還債権を担保するため、返戻金に原告が第一順位の質権を設定することを前提としたニッサンパックローンではなく、保険会社が保険契約者に対する契約者貸付けを行い、原告は、立替金返還債権の担保として、別途不動産担保等を取得することを前提としたフラワープランである。

したがって、本件保険契約及び本件立替払契約の実質は、被告の契約者貸付け制度を利用した原告の穂高建設に対する融資であるといえるから、原告は、穂高建設から本件立替金返還債権を回収することによって、右融資金の回収を図るべきである。そして、融資金が回収できるか否かは、専ら穂高建設の資力や原告が取得した担保が十分であったかどうかにかかるのであって、本件保険契約の有効無効とは関係がない。

(2)  そうでないとしても、本件保険契約は有効であるから、原告の主張には理由がない。

すなわち、本件保険契約は、契約者貸付けのみならず、保険事故発生の場合の損害填補をも目的としていたから、その目的が不法であるとはいえない。

保険契約が行政法規に違反して締結されたとしても、それだけでは契約が無効となるものではない。

また、本件保険契約が締結された当時、穂高建設と被告の間では、丸芳荘を付保物件として想定しており、後に、穂高建設が、丸芳荘を取り壊して本件所在地にホテルを建設する計画があったことから、その場合には付保物件を当該建物とする物件異動を行う旨の合意をした。したがって、付保物件は存在したのであり、また、丸芳荘の所有者は、丸芳荘を付保物件とすることを了承していた。

以上によれば、本件保険契約が公序良俗に反し、あるいは商法違反である旨の原告の主張には理由がない。

(二) 本件立替払契約の無効の主張について

森口は、本件取引当時、原告の大阪営業所の所長代理の地位にあったから、商法四三条に掲げる使用人に該当し、大阪営業所で行う営業につき、一切の裁判外の行為を行う権限を有していた。したがって、森口が、本件に関してした行為は、全て対外的には有効である。また、森口は、原告の代理人として本件フラワープランを実施したのであり、対外的に有効な代理権を有していた。

また、森口は、本件立替金返還債権の担保として返戻金に質権が設定されないことは知っていたから、原告の錯誤の主張には理由がない。

本件保険契約と本件立替払契約は、法的に別個独立の契約であるし、当事者は、それぞれ各契約を独自の判断で締結するのであるから、当事者の意思により牽連関係が生じることはなく、また、本件は、フラワープランに基づく取引であるから、本件がニッサンパックローンであることを前提として本件保険契約と本件立替払契約に発生上の牽連性があるという原告の主張は、前提が異なっており、失当である。

さらに、フラワープランにおいては、原告は、返戻金に質権を設定するのではなく、別途不動産担保等を設定して立替金債権の回収を図るものであるから、立替払金の回収と保険契約との間に関連性はなく、本件にニッサンパックローンを類推適用することもできない。

(三)(1)  本件フラワープランは、実質的には原告から穂高建設に対する融資であって、原告の主張する損失は、原告が設定を受けるべきであった不動産担保の不足ないし穂高建設の無資力によるものであるから、仮に被告が利得を得たといえるとしても、原告の主張する損失との間に因果関係はない。

また、本件保険契約と本件立替払契約との間には、右(二)に述べたとおり、発生上の牽連関係はなく、原告と被告間には直接の権利義務関係はないから、この点でも因果関係は認められない。

(2)  また、被告は、本件保険契約に基づいて、本件一時払保険料を受け取ったのであるから、被告に利得があるとしても、それは法律上の原因に基づくものである。

仮に、本件保険契約が無効であるとしても、原告は、穂高建設に対して本件立替金返還債権の返還を求めることができるのであるから、原告には損失は発生していない。

したがって、原告の被告に対する不当利得返還請求は認められない。

2  被告は、原告に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うか否か。

(原告の主張)

(一) ニッサンパックローン協定違反

本件保険契約及び本件立替払契約は、ニッサンパックローン協定に基づく契約であり、同協定の適用がある。仮にそうでないとしても、右協定に基づく契約と同種の契約であるから、右協定が類推適用されるというべきである。そして、以下のとおり、被告は、右協定上の義務に違反したから、原告に対し、債務不履行責任を負う。

(1)  信義誠実義務違反

被告は、ニッサンパックローン協定(甲第一号証)第一条により、原告に対し、社会的に妥当で法的に有効かつ適正な保険契約を締結すべき信義誠実義務を負っていたにもかかわらず、その義務に違反して、前記争点1(原告の主張)(一)(1) (2) 記載のとおり、公序良俗に反し、商法に違反する違法・不当な契約を締結した。

(2)  監督義務違反

被告は、ニッサンパックローン協定第三条により、保険代理店に対し、違法・不当な保険契約の保険料の立替払をさせることにより原告に損害を与えないように、適切な指導監督を行う義務を負っていたにもかかわらず、その義務に違反した。

すなわち、本件保険契約の保険代理店業務を行ったのは木岡であり、その履行補助者が辻田清秀(以下「辻田」という。)であるところ、右両名は、本件保険契約の目的が契約者貸付けの実行にあることや付保物件が存在しないことなどを知っていたにもかかわらず、これを原告に告げないで、原告に対し、本件一時払保険料の立替払を委託した。

被告は、右両名に対し、適切な指導監督を行わなかった。

(3)  質権設定承認義務違反

被告は、ニッサンパックローン協定第五条により、原告の債権保全のために、返戻金に対し原告の第一順位の質権が設定されることを承認する義務があり、質権が設定されない場合でも、原告に対する担保保持協力義務として、保険契約者の資力が十分でないことを知り、又は容易に知り得べき場合には、これを事前に原告に通知するなどするべきであった。

しかし、被告は、本件において、返戻金に原告の質権設定を承認しない場合であることを知り、かつ、穂高建設の資力が十分でないことを知りながら、あるいは容易に知り得べきであったにもかかわらず、そのことを原告に事前に通知しなかった。

(4)  事前通知・承諾義務違反

被告は、ニッサンパックローン協定第八条により、原告の立替払により成立した保険契約に基づき、契約者貸付けを実行する場合は、事前にその旨を原告に通知し、原告の承認を得る義務を負っていたにもかかわらず、これをしないで契約者貸付けを実行した。

(二) 保護義務違反による債務不履行責任

仮に、本件がニッサンパックローン協定外の取引であるとしても、原告と被告は、継続的契約関係にあるから、原告と被告間の信頼関係は、協定外の取引にも及んでいる。そして、本件取引により、被告は何の危険もなく多額の保険料収入等を得られるのに対し、原告は、立替金の回収ができなければ多額の損害を被ること、被告は、森口の不正行為を知ったか、容易に知り得る状況にあったことなどの具体的事情を総合すれば、原告と被告との間においては、保護義務の適用があると解するべきである。

本件において、被告には、原告に対し、<1>社会的に妥当で、法的に有効かつ適正な保険契約を締結する信義誠実義務、<2>保険代理店を指導監督する義務、<3>ニッサンパックローン協定外の取引を行ってよいか、返戻金に対する質権設定の要否及び森口に不正行為の可能性があるかなどについて、事前に照会・確認する義務などの保護義務があった。

被告は、これらの義務に違反したから、保護義務違反による債務不履行責任を負う。

(被告の主張)

(一) 協定違反に基づく債務不履行の主張について

(1)  本件保険契約及び本件立替払契約は、フラワープランに基づいて締結された契約であるから、そもそもニッサンパックローン協定の適用ないし類推適用はなく、同協定違反に基づく債務不履行の主張は、その前提を欠いている。

(2)  そうでないとしても、ニッサンパックローン協定第一条が定めているのは、同協定の目的であって、同条項から被告に信義誠実義務が発生するものではない上、本件保険契約は、前記争点1(被告の主張)(一)(2) で述べたとおり、違法・不当なものではない。

また、ニッサンパックローン協定の第三条から、被告が保険代理店等を指導・監督する義務は生じない。

さらに、本件は、フラワープランによるものであるから、原告が返戻金に質権を設定しなかったことや、被告が契約者貸付けを原告に通知しないで実行したことについて被告が責任を負ういわれはなく、また、立替金債権保全のための担保は原告が別途不動産担保を設定することになっていたのであるから、穂高建設の資力について被告に通知義務はない。

(3)  原告の主張する損害は、原告が穂高建設に対し十分な担保を設定させておかなかったことによるものであって、右損害と、被告が原告から本件一時払保険料を受け取ったこととの間には、因果関係はない。

(二) 保護義務違反による債務不履行の主張について

森口は、原告の大阪営業所の所長代理として、同営業所の営業に関して対外的に一切の裁判外の行為をする権限を有しており、被告は、森口を信頼して取引を行ったのであるから、原告が保護義務として主張するような事項を被告が照会するべき義務はなかったというべきである。

よって、被告は、保護義務違反による債務不履行責任を負わない。

3  被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うか否か。

(原告の主張)

本件のように、手元資金のない事業者である穂高建設に対し、被告が契約者貸付けを行う目的で保険契約が締結された場合は、被告は、原告から立替払を受けて保険契約を締結して保険料収入等の利益を享受し、かつ、後に返戻金と貸付金を対当額で相殺することができるため、何らの危険もないのに対し、原告は、返戻金に対し第一順位の質権を設定することができず、不動産担保等を取得するしか債権保全の方法がない。このような状況に照らせば、被告は、以下の注意義務違反の責任を負うべきである。

なお、木岡は、被告の保険代理店として、辻田は、木岡の履行補助者として本件保険契約の成立に関与しており、小川は、被告の従業員であるから、いずれも被告の被用者というべきであり、本件が、被告の事業の執行として行われたことは明らかであるから、被告は、これらの者の不法行為について使用者責任(民法七〇九条、七一五条)を負う。

(一) 小川及び木岡の違法行為

(1)  適法・適正な保険契約を締結する義務違反

被告の担当者及び被告の代理店は、保険契約の締結業務に従事する者として、適法・適正な保険契約を締結すべき義務を負っていた。

しかし、小川及び木岡は、右注意義務に違反し、穂高建設に対する契約者貸付けを実行するため、故意又は過失により、適法・適正な保険契約であると装って、違法・不当な本件保険契約を成立させ、森口をして、原告に本件一時払保険料を立替払させた。

(2)  債権侵害回避義務違反

被告は、原告に無断で契約者貸付けを実行するなどして、原告の立替金債権保全の機会を奪ってその回収を困難にしてはならない義務を負っていた。

しかし、小川及び木岡は、原告の質権設定が承認されない場合であることを知っていたにもかかわらず、故意又は過失により、そのことを原告に秘して一時払保険料を出捐させた。さらに、小川及び木岡は、森口から、穂高建設の原告に対する不動産担保設定ができるまで契約者貸付けの実行を待って欲しい旨の依頼を受けたにもかかわらず、原告が担保設定を受ける前に森口に無断で契約者貸付けを実行した。

(3)  保険契約者の信用状態についての通知義務違反

被告は、保険契約者の資力が不十分であることを知り、あるいは容易に知り得べきときには、保険契約者の資力について原告に対し事前に通知すべき義務を負っていた。

しかし、小川、木岡及び辻田は、穂高建設の資力が不十分であることを知り、あるいは容易に知り得べき状況にあったのに、森口に対しこれを通知せず、原告の債権回収の機会を奪って、これを困難にした。

(二) 森口の違法行為と小川及び木岡の認識

(1)  森口は、本件保険契約に基づいて契約者貸付けが実行される結果、原告の立替金債権を保全するための質権設定ができないことを知りながら、本件立替払契約について質権設定付のニッサンパックローン契約書を使用すると共に、原告に対し、本件は質権設定付のニッサンパックローンであると偽って、原告の従業員に命じて立替払金を送金させた。森口は、原告の決裁権限規定に反し、質権設定付のニッサンパックローンの場合に必要とされる手続を行っていないのみならず、フラワープランを実行する場合には、全ての案件を原告代表者に上申し、同人の決裁及び不動産に十分な担保を設定した上で送金手続をとらなければならなかったにもかかわらず、その手続を行わなかった。

(2)  本件においては、森口は、わずか一週間という短期間の間に、金一億五〇〇〇万円という多額の金員を被告に送金する手続を終えてしまったのであるから、小川及び木岡は、森口が原告の社内規定に違反して不正行為を行っていることを知り、または知り得べきであった。

そして、小川及び木岡は、原告にとって、返戻金に対し質権を設定することは立替金返還債権保全のために欠かせないことを承知していたにもかかわらず、故意又は過失により、右事実を原告に告げることなく、被告の契約者貸付けを実行するために、森口をして、原告に本件一時払保険料を送金させた。

なお、森口が、小川及び木岡に対し、本件立替払契約については、返戻金に対する質権設定は不要である旨告げたとしても、森口は、原告の一つの営業所の所長代理に過ぎないから、一般的に、多額な金員を、質権設定をせずに立替払をすることを承認する権限を有していることはあり得ず、かつ、小川及び木岡は、立替払金の送金前に原告が穂高建設から担保を取得していないことを知っていたのであるから、小川及び木岡は、森口の不正行為について知り、あるいは容易に知り得べきであった。

(三) 損害

被告の不法行為の結果、原告は、被告に対し、本件一時払保険料として金一億五〇〇〇万円を立替払したが、穂高建設から右立替金の返済を受けておらず、かつ、穂高建設は事実上倒産状態であり、右金員の返済は不能な状況であるから、原告の損害は、金一億五〇〇〇万円である。

(被告の主張)

(一) 小川及び木岡の不法行為の主張について

本件保険契約は、適法・適正な契約であって、そもそも小川及び木岡が違法・不当な保険契約を締結した事実はない。

また、穂高建設が、契約者貸付けを受けることを目的として本件保険契約を締結することは、当初から森口には告げられており、森口は、本件がフラワープランであり、原告の立替払金債権の担保として、返戻金に対する第一順位の質権を設定することはできず、別途不動産担保等を設定することにより、立替金返還債権の保全を図ることは了承していたのであるから、原告もそのことを了承していたというべきである。

そして、フラワープランにおいては、返戻金に対する原告の第一順位の質権は設定されないのであるから、被告が契約者貸付けを行うについて、原告の承諾も、事前の通知も不要である。

なお、被告の保険約款においては、保険契約が成立すれば、直ちに契約者貸付けを行うことができることになっているから、被告が原告に事前の通知をせず、速やかに穂高建設に対する契約者貸付けを行ったことについて何らの落ち度もない。

被告は、穂高建設の資力が十分でないとの認識はなかったし、フラワープランにおいては、原告において別途不動産担保等を設定することになっていたのであるから、被告には、穂高建設の資力について原告に通知する義務もない。

(二) 森口の不正行為と小川及び木岡の認識の主張について

森口は、原告の大阪営業所の所長代理という立場にあった者であるから、小川及び木岡は、森口が、原告の社内規定に反して不正行為をするなどとは考えておらず、森口の不正行為を知り又は知り得べき状況にはなかった。

したがって、被告は、不法行為による責任を負わない。

第三争点に対する判断

一  本件保険契約の締結に至る経緯等

前記第二の一の争いのない事実等と証拠(甲第一、第三ないし第一九、第二一ないし二三、第二五ないし三二号証、乙第一ないし五、第七ないし九、証人森口房好、同木岡利仁、同小川祥二、同辻田清秀の各証言)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  ニッサンパックローンについて

(一) 原告は、昭和五七年から、二ツサンパックローンの取扱を開始し、損害保険会社との間において協定書を締結した。

当初、ニッサンパックローンでは、原告が、保険契約者の損害保険会社に対する保険金請求権や返戻金請求権等に質権を設定して、保険契約者に対する立替金返還債権を保全するものとされており、それ以外の債権保全方法は想定されていなかった。

(二) しかし、その後、原告は、保険会社が保険契約者に対して契約者貸付けを行うものである「ニッサンパックローンアミーゴ」という商品を発売することとし、昭和六一年に、各保険会社との間で協定書を更新する際、契約者貸付けについての条項を追加した。右「ニッサンパックローンアミーゴ」は、原告が、保険契約者の保険会社に対する保険金請求権等に質権を設定するが、保険契約者の原告に対するローンの返済が進み、担保余力が生じた場合に、その範囲で、原告の承認のもとに契約者貸付けを行うというものであった。

(三) ところが、大蔵省が、保険会社の契約者貸付けと原告のようなクレジット会社による保険料ローン(立替払)が組み合わされた商品の販売を見直すよう行政指導を行ったため、被告を含む各保険会社は、昭和六二年二月以降、右商品の販売を中止し、原告に対し、「ニッサンパックローンアミーゴ」の取扱いを中止する旨通知した。このため、ニッサンパックローン協定の契約者貸付条項は、この時点において事実上失効した。(なお、昭和六三年以降に、原告と保険会社との間で締結された協定書の書式からは、契約者貸付けに関する条項が削除されている。)。

2  被告との間のニッサンパックローン協定の締結

原告は、昭和五八年六月一日、被告との間で最初のニッサンパックローン協定を締結し、その後、協定の更新が行われ、本件当時、被告との間で有効であった協定書は、昭和六二年一〇月一日に更新された協定書(甲第一号証)である。同協定書には、次のとおり規定されている。なお、この規定のうち第八条の契約者貸付条項が事実上失効していることは、前記1の(三)記載のとおりである。

(一) 第一条(本ローンの目的)

本ローンは、被告並びに原告の有する保険市場、消費者金融市場の健全なる育成と併せて相互の事業の拡大に資することを目的とする。

(二) 第三条(指導・監督等)

原告及び被告は、本ローンを利用した保険販売の健全な伸長を期すため互いに協力するものとし、被告は本ローンを取り扱う代理店等に対し適切な指導を行うものとする。

(三) 第五条(質権設定並びに質権消滅に関する事務手続)

保険金請求権<死亡保険金・後遺障害保険金>及び返戻金請求権<保険契約の満期(契約者配当金を含む)・無効・失効・解除に伴う返戻金>に関し、原告を第一順位の質権者とする質権設定並びに質権消滅を行う場合の事務手続は以下の通りとする。

(1)  「質権設定承認請求書並びに契約解除権の代理権付与通知書」には原告の押印を省略する。被告は原告の押印を省略した「質権設定承認請求書並びに契約解除権の代理権付与通知書」を受領したときは、質権設定承認にかかる他の要件について欠陥のない限り質権設定を承認する。(以下省略)

(四) 第八条(契約者貸付制度の利用)

原告及び被告は、本ローンを利用して「取扱手引書」に定める保険の一時払保険料を被告へ支払った顧客(以下「本ローン契約者」という。)が、被告の契約者貸付けの制度(以下「契約者貸付制度」という。)を、被告の定める方法により、原告の承認のもとに利用することを確認する。

本ローン契約者が、前項により契約者貸付制度の利用を被告に申し出た場合は、被告の責任において、当該申出が本ローン契約者の真意に基づくものであることを確認する。

被告は、本ローン契約者が以下の各号の一に該当した場合、原告が、本ローン契約者の契約者貸付制度の利用を承認しないことを了承する。

(1)  (省略)

(2)  (省略)

(3)  本ローンのうち、ニッサンパックローンについては、保険契約者が法人又は未成年であるとき。

(4)  (省略)

(5)  契約者貸付けの資金使途が車検以外のとき。

(6)  (省略)

3  フラワープランの内容及びその実施に至る経緯

(一) 森口は、平成元年一月より、原告の大阪営業所の所長代理として、原告の扱うニッサンパックローンなどの保険料クレジットの営業、実行、管理及び債権回収等の業務に従事していた。

(二) 森口は、平成二年七月ないし九月ころ、安田火災海上保険会社(以下「安田火災」という。)に営業のために出入りしていた際に、同会社営業開発部第二課の山本健一(以下「山本」という。)、安田火災の保険代理店であった株式会社ファイナンシャルステーション大阪の代表者である重井満也(以下「重井」という。)と知り合った。

平成二年四月以降、大蔵省のいわゆる総量規制により、金融機関の不動産業者に対する融資が制限されていたので、安田火災は、同年五月ないし七月ころから、事業者に対して資金を提供する方法として、安田火災と顧客が保険契約を締結する際、金融機関がその一時払保険料を融資し、これにより安田火災は顧客に契約者貸付けを実施すること、金融機関は顧客に対する立替金債権を保全するため、別途顧客からその所有する不動産に抵当権の設定を受けることを内容とする商品の販売を行っていた。

山本や重井は、森口に対し、同年一〇月ころ、安田火災で行っていた右商品の販売を、原告のニッサンパックローンを利用して行うことを提案した。その際、重井、山本及び森口は、重井が受領する代理店手数料を山本及び森口にも分配することについて話し合った。

(三) そして、森口は、平成二年一一月一九日、原告会社において、右の商品(フラワープラン)を実施するためのスキームについて稟議に上げた。その結果、フラワープランについては、案件毎に個別申請をすること、満期返戻金から契約者貸付けの元利合計額を差し引いた金額については、顧客から原告の代理受領を認める旨の承諾書を徴求し、事故発生の場合は、保険会社に対し、右承諾書を示して右差額分の金員を受領することができるようにする等の条件が付された上で、同年一二月七日、原告内部で了承された。

(四) なお、原告の与信決裁規定によれば、ニッサンパックローンについては、立替払額が一〇〇〇万円を超えるものは、営業所長だけでは決裁できず、支社長以上の決裁が必要とされている。

(五) しかし、森口は、以後、フラワープランについて原告内部において右(三)のとおり定められた個別申請をすることなく、かつ、不動産担保等により十分な債権保全措置も取らず、しかもニッサンパックローンにおいて必要とされている原告内部の決裁手続も経ずに、複数の損害保険会社との間で、多数回にわたりフラワープランを実行した。本件取引も、そのうちの一つである。

4  本件取引の実行の経緯

(一) 訴外阪和興業株式会社の従業員であった小原務(以下「小原」という。)は、右のとおり重井、安田火災及び森口がフラワープランを実行していることを知り、平成二年一一月下旬ころ、森口に接触して安田火災以外の損害保険会社との間でもフラワープランを実行するように進言した。そして、平成二年一二月初めころ、小原は、森口に対し、保険会社の代理店業務を行っていた木岡を紹介した。

木岡は、平成三年一月ないし二月ころ、知人の辻田から、同人が経営する会社の事業資金として融資を受けたいということを聞いていた。そこで、木岡は、フラワープランによる資金調達の方法があることを辻田に説明するとともに、同年二月ころ、森口を辻田に紹介した。

(二) 辻田は、同人が経営する会社の事業として、本件土地を買収してホテルを建設したいと考えており、同年三月ころ、木岡を通して、森口に対し、辻田が代表取締役である株式会社エースグループにおいてフラワープランによる融資を受けたい旨の申入れをし、株式会社エースグループの決算書類及び担保予定の物件資料として丸芳荘の不動産登記簿謄本を渡した。しかし、森口は、丸芳荘の所有者が第三者であったこと及び一回会った際の印象で、辻田が信用できる人物かどうか疑問を持ったことから、一旦は辻田の右申入れを断った。

(三) 他方、木岡は、同月中旬ころ、小川に対し、株式会社エースグループという会社が、原告に一時払保険料を立替払してもらうことにより、被告との間で保険契約を締結し、被告から早期に契約者貸付けを受けることを希望している旨伝えた。小川は、同月末から四月初旬ころ、被告内部において、契約者貸付けを保険契約締結後即時に実行することが可能であることの確認を得たので、木岡を通じて株式会社エースグループの商業登記簿謄本等を取り寄せるなどした。

しかし、株式会社エースグループを保険契約者とすることについては、右(二)のとおり、森口が一旦これを断ったことから、今度は、保険契約者を、辻田と共同して事業を行うなどしていた村上穂(以下「村上」という。)が代表取締役である穂高建設としてフラワープランを実行してほしい旨の申入れがされ、森口もこれを了承した。

(四) その後、小川は、辻田と会い、保険契約者は穂高建設とすること、付保物件には丸芳荘が予定されていることなどを確認した。小川は、丸芳荘の登記簿謄本を確認したところ、丸芳荘の所有者が、穂高建設でも辻田個人でもない第三者であり、さらに丸芳荘に根抵当権が設定されていることが判明した。このことに関して、辻田は、本件所在地を買収してホテルを建設する計画があるが、株式会社エースグループや穂高建設は設立の歴史が浅く、銀行から融資を受けにくいので、丸芳荘に設定されている根抵当権の抹消資金の一部として、契約者貸付けにより、三億円程度の融資を受けたいと述べた。

右同日ころ、小川は、森口に対し、本件について、返戻金に原告の質権を設定せずに、一時払保険料について立替払契約を締結することが可能であるのか否かあらためて確認したところ、森口は、別担保を設定するので問題はなく、大丈夫である旨回答した。

(五) 同年四月中旬ころ、森口は、被告に対し、一時払保険料の立替払契約を締結することを承認する旨の通知をし、小川は、森口、辻田及び木岡に対し、被告が本件保険契約を締結することを承認する旨の連絡をした。

その後、森口から、小川に対し、原告が融資できる金額は別担保の枠の関係で一億五〇〇〇万円である旨の連絡が入り、一時払保険料を一億五〇〇〇万円程度にすることを基本にして保険設計がされた。

(六) そのころ、小川は、辻田を通じて村上に対し、保険契約の申込書及び契約者貸付書類等を送付し、村上は、保険契約の申込書等を作成し、辻田を通じて被告に送付した。なお、本件保険契約の代理店業務を行ったのは木岡であるが、保険契約の申込書等には、木岡の知人が所属する東京リスクマネジメントという代理店が記載され、さらに、被告の公務営業部代理店扱いにして契約者貸付けの事務処理の円滑を期すため、京浜ポートサービスという代理店の名義を借り、同申込書に記載された。

また、本件保険契約の付保物件を丸芳荘とすると、その保険金額が七三〇〇万円にしかならず、一時払保険料も低額になるので、一時払保険料及び契約者貸付けの可能な金額を高額にするため、小川、木岡及び辻田らの話し合いの上、本件保険契約の申込書等には、現実に存在する建物(丸芳荘)とは異なる構造の建物である八階建の共同住宅が付保物件として記載された(なお、木岡は、付保物件が実際に存在する建物と異なる架空の建物であったことは知らなかった旨証言するが、小川の証言に照らして、信用することができない。)。

また、村上は、原告の大阪営業所へ行き、森口の立会いのもと、ニッサンパックローン契約書を作成した。その際、森口も、右契約書の中で必要な部分に自ら記載した。

(七) 森口は、同月一九日ころ、原告の大阪営業所の従業員である登川に対し、本件立替払契約に基づき、一億五〇〇〇万円を送金処理するよう指示し、同日、登川は原告の売上一覧伝票に記載してこれを送金処理した。登川は、同月二二日、被告の公務営業部が指定した口座に対し、右金員を送金するとともに、被告に対し、保険料ローン送金のご案内と題する書面をファクシミリで送信し、このころ前記争いのない事実等3記載のとおり、本件立替払契約が締結された。登川は、右送金手続を指示された際、森口に対し、原告内部の決裁が下りていないにもかかわらず、多額の立替払金を送金してよいのかどうか尋ねたが、森口は、後日支社長の決裁を取ることになっており、解約リスク(保険契約が中途解約された場合に、立替払者である原告が質権を設定する解約返戻金の金額と立替払額の差額が生じることにより原告に発生するリスクのことであり、原告においては、当時、概ね立替払金額の五パーセント程度とされていた。)については、十分な不動産担保を取得できることになっているから大丈夫である旨回答した。

しかし、実際には、森口は、右の時点において、本件立替払契約について、原告内部においてフラワープランとしての個別申請をすることなく、かつ、ニッサンパックローンにおいて必要とされている原告の決裁手続を経ていなかった。

(八) 同月二二日付けで、前記争いのない事実等2記載のとおり、本件保険契約が締結された。

右同日付で、被告と穂高建設との間で、覚書が取り交わされ、本件保険契約の保険金額は、本来の物件(丸芳荘)の評価額である七三〇〇万円とし、超過部分については無効とすること、当時、構想中の堺市のホテルの完成後は、物件異動をするものとする旨の合意がされた。

辻田は、小川に対し、早期に契約者貸付けをしてほしい旨申し入れ、小川は、契約者貸付けのために必要な書類を、被告の担当部署に提出し、同月二五日、前記争いのない事実等4記載のとおり、契約者貸付けが実行された。

(九) 被告(小川)は、同月二二日ころ、東京リスクマネジメント名義の口座に、本件の手数料として六一八万〇八五一円を送金させ、その約五パーセントについては、東京リスクマネジメントが取得し、残りの約六〇〇万円は木岡が受領した。

(一〇) 同月二三日、森口は、原告の大阪営業所の従業員に対し、ニッサンパックローン取次書を作成するよう指示し、同取次書に、本件立替払契約の解約リスクである七五〇万円については、穂高建設の代表者が所有する不動産に根抵当権の設定を行うので、一時払保険料を立替払することについては特に問題ない旨記載させた。森口は、同日付で、同取次書の立替可否の所長欄の可のところに押印した。

さらに、原告においては、ニッサンパックローンに基づく立替払契約についても、決裁権限規定上は、立替払金額が一億五〇〇〇万円の場合、支社長の決裁が必要であり、大口融資決裁申請書の作成が必要となるため、右同日、森口は、原告の従業員に指示してこれを作成させ、同申請書に基づき、同月二七日、最終決裁権者である関西支社の支社長の決裁印が押捺され、原告の本社に対し決裁報告書が提出された。

(一一) 同年六月ころ、木岡は、辻田に対し、本件の手数料として自ら受取った六〇〇万円のうち、三〇〇万円を送金した。また、同年九月ころ、森口は、辻田から、本件の手数料として、五〇万円を受け取った。

(一二) 同年五月ないし六月ころ、村上は、原告の大阪営業所へ行き、辻田から預かっていた辻田が所有する不動産の登記済権利証、印鑑登録証明書及び委任状等の書類を、本件立替払契約の担保設定書類として森口に渡したが、森口は、抵当権設定登記手続をしないで放置していた。

5  事後の保全措置

同年六月ころ、原告の本社監査室が、大阪営業所に対し、特命監査を行ったところ、森口が、必要な決裁手続を一切とらず、かつ、債権保全措置を十分に講ずることなく、フラワープランと呼ばれる保険料ローンを多数回にわたり行っていたことが明らかとなった。

そこで、原告は、顧客に対し、抵当権の設定及び解約返戻金から契約者貸付けの元利合計額を差し引いた差額についての質権設定等を依頼して債権保全のための対応策を講じた。

本件については、右4(二)のとおり、森口が既に村上から抵当権設定に必要な書類を受領していたため、原告は、平成三年七月九日付けで根抵当権設定登記を経由した。原告は、解約返戻金の余剰金に対する質権の設定も試みたが、本件保険契約の解約手続が行われることになったことなどから、設定することはできなかった。

6  解約返戻金の支払

同年一一月一二日ころ、辻田が、被告を訪れ、本件保険契約を解約したい旨申し入れ、前記争いのない事実等5記載のとおり、同日付で本件保険契約が解約された。

被告は、右解約に基づき、契約者貸付けの元利金である一億一五八八万五六三三円と解約返戻金一億四四二一万四三三〇円との差額である金二八三二万八六九七円を、穂高建設に対し支払った。

7  なお、森口は、平成四年一二月、原告内部の決裁を経ないでフラワープランを実行した件で、背任罪により起訴され、平成一一年三月二四日、大阪地方裁判所において、懲役四年の有罪判決を受けた(もっとも、本件取引については起訴されなかった。)。

二  争点1(不当利得の成否)について

1  原告は、本件保険契約の無効や本件立替払契約の無効を理由に、原告が立替払した保険料について不当利得としてその返還を求めているので、以下検討する。

2  本件保険契約について

(一) 本件保険契約において付保物件として合意された建物(八階建共同住宅)は本件土地上に実在しないこと、本件土地上に実在するのは丸芳荘であり、被告と穂高建設は、本件保険契約の保険限度額を丸芳荘の評価額である七三〇〇万円と合意していたことなどの前記認定事実に照らすと、本件保険契約の付保物件は丸芳荘であると認められる。したがって、本件保険契約は、超過保険であり、超過部分は無効であるというべきである。

(二) なお、丸芳荘は穂高建設以外の第三者が所有するものであるが、穂高建設が本件保険契約を締結するに当たり丸芳荘の所有者の承諾を得ていないことを認める証拠はない。

また、原告は、本件保険契約は公序良俗に反して全部無効であると主張するが、被告と穂高建設との間では、丸芳荘の評価額である七三〇〇万円の限度においては、損害の填補をする意思があることを考慮すると、右七三〇〇万円の部分については、公序良俗に違反するとまではいえない。

(三) したがって、本件保険契約は、七三〇〇万円の限度で有効であるがこれを超過する部分は無効である。

3  本件立替払契約について

(一) 森口は、当時、原告の大阪営業所の所長代理として、原告の扱うニッサンパックローン等の保険料に関して立替払契約の締結業務等を行っていたことに照らせば、本件立替払契約についても、対外的に原告の代理人としてこれを締結する権限を有していたものというべきであるから、無権代理により本件立替払契約が無効であるとは認められない。森口が原告内部の決裁手続を経ていなかったことは、右認定を左右するものではない。

(二) 錯誤について

本件保険契約と本件立替払契約は、契約当事者を異にする別個の契約である。

また、本件立替払契約の約款(甲第六号証。第二条、第八条、第九条)には、穂高建設が保険契約の頭金の支払をしないことによって本件保険契約の効力が発生しない場合は、本件立替払契約はさかのぼって効力を失うが、本件保険契約がその余の事由によって無効となる場合については、本件立替払契約は有効であり、穂高建設に立替金の返還義務が生ずる趣旨が規定されているから、原告と穂高建設は、本件保険契約が有効であることを合意していることが明らかである。

これらによれば、本件保険契約の効力如何は本件立替払契約の要素とはいえず、この点に関する錯誤は、本件立替払契約の無効事由に当たらないというべきである。

また、本件においては、そもそも原告が返戻金に質権を設定することは前提となっていなかったのであるから、この点に関して錯誤があったということはできない。

(三) さらに、原告は、本件保険契約が無効であれば本件立替払契約は原始的無効であると主張するが、本件保険契約が無効であっても本件立替払契約は有効であるとする前記(二)記載の本件立替払契約の約款の趣旨に照らして、理由のないことは明らかである。

(四) 原告は、関係当事者は本件保険契約と本件立替払契約には発生上の牽連性があることを合意しているから、本件保険契約の無効により本件立替払契約も無効となると主張する。しかし、本件立替払契約の前記約款に加え、ニッサンパックローン協定においても、保険契約が無効である場合には保険会社(被告)は保険契約者(穂高建設)に無効返戻金の支払義務があることを前提とする規定が置かれているのであり(甲第一号証。第五条、第六条)、関係当事者間においては、保険契約が無効であっても、立替払契約は有効である(被告は穂高建設に無効返戻金の支払義務があり、穂高建設は原告に対し立替金の返還義務がある。)ことが確認されているというべきである。

したがって、原告のこの点の主張も理由がない。

4  以上によれば、本件立替払契約は有効であり、原告は、被告に保険金を立替払したが、穂高建設に対して立替金の返還請求権を有するのであるから、原告に損失が生じているとはいえない。

また、被告は原告から保険金を受領したが、穂高建設に対し無効返戻金の支払義務を負担しているのであるから、被告が利得を保有しているともいえない(なお、被告は、本件保険契約成立後、穂高建設に契約者貸付けを行い、その後穂高建設からの申入れを受けて本件保険契約が解約された際に、穂高建設に対して契約者貸付金と解約返戻金の差額を支払っているから、現実にも利得を保有していない。)。

したがって、原告の不当利得の主張は失当である。

5  なお、念のため付言するに、本件保険契約及び本件立替払契約は、原告が、顧客との間で、その所有する不動産等を担保に取り、立替払契約を締結して保険会社である被告に保険料を支払い、被告が顧客との間で保険契約を締結して、顧客に契約者貸付けを行うことによって、原告が顧客に事業資金等を融資するというフラワープランに基づく契約である。

そして、本件保険契約と本件立替払契約は、これを実質的に見ると、不動産等の担保による原告の穂高建設に対する融資であり、この融資を実行する手段として、本件保険契約の契約者貸付けを利用しているに過ぎないものであるということができる。

そして、このようなフラワープランにおいては、立替金を支払う原告とこれを受領する被告との間において、原告は、立替金返還債権を行使して顧客から融資金を回収することが前提となっていたというべきであり、原告が穂高建設から融資金を回収することができるかどうかは、専ら、顧客の資力や、担保が十分であるかどうかなどの事情にかかっているのであって、保険契約が無効であるか有効であるかは、融資金を回収することができるかどうかとは関係がないといわなければならない。

原告の主張する損失は、穂高建設の無資力ないし担保不足等の事情によるものであって、保険契約の無効によるものではないというべきである。

三  争点2(債務不履行の成否)について

1  前記のとおり、本件取引はフラワープランによるものであり、ニッサンパックローンそのものではないが、損害保険会社と損害保険契約を締結する顧客の委託を受けて、損害保険会社に一時払保険料を立替払する点においては、ニッサンパックローンと同種の商品であるから、その性質に反しない限り、原、被告間のニッサンパックローン協定が類推適用されるというべきである。

2(一)  原告は、ニッサンパックローン協定の第一条により、被告は、原告に対し、有効・適正な保険契約を締結すべき義務があり、同三条により、代理店である木岡に対して付保物件の調査及び有効・適正な保険契約を締結させることについて指導監督すべき義務があると主張する。

しかしながら、右各条の定めは、極めて抽象的な内容に留まること、本件保険契約の効力の有無は、原告の立替金返還債権の存否及びその回収可能性を左右するものではないこと(ニッサンパックローンにおいては、原告は、保険契約の効力の有無にかかわらず、保険の満期返戻金又は無効・解約返戻金に対して質権を取得し、これをもって立替金返還債権の回収を担保する。フラワープランにおいては、原告は、保険契約の効力の有無にかかわらず、保険の満期返戻金又は無効・解約返戻金に対して質権を取得せず、別途原告において取得する不動産担保等によって立替金返還債権の回収を担保する。いずれの場合も、本件保険契約の効力の有無は、原告の立替金返還債権の回収可能性を左右しない。)を考慮すると、この定めをもって、直ちに、被告が原告主張のような具体的な注意義務を負っていると認めるには足りない。

したがって、原告の右主張は採用することはできない。

(二)  また、原告は、ニッサンパックローン協定第五条により、被告が原告の債権保全のために、返戻金に対し原告の質権が設定されることを承認し、そうでない場合には、保険契約者の資力について原告に事前に通知する義務があると主張する。

しかし、同条の規定は、原告を質権者とする質権設定を行う場合の事務手続を定めた規定であり、本件のように質権の設定が行われず、不動産等の担保を設定することが予定されたフラワープランの場合を想定した規定ではないから、そもそも本件には類推適用がないというべきである。

また、本件フラワープランが、実質的に原告から穂高建設に対する融資であることからすれば、不動産等の担保の設定は、本来原告の責任において行われるべきであること及び森口において別途担保を設定するので大丈夫である旨を被告に伝えていたことに照らすと、被告には、保険契約者の資力について原告に通知するべき義務があるとはいえない。

(三)  原告は、ニッサンパックローン協定第八条により、被告は、契約者貸付けを実行する場合、原告に事前に通知する義務を負っていたのに、これを怠った旨主張する。

しかしながら、同条はすでに失効している規定であり、類推適用の余地はない。

また、本件はフラワープランであった上、そのことは、原告の担当者である森口は十分承知していたことから、原告も被告が契約者貸付けを行うことを前提に本件立替払契約を締結したものといえる。よって、本件において、被告が、契約者貸付けを実行する場合に、原告に対し事前に承諾を得、又は通知する義務を負っていたとは認められない。

したがって、原告の主張は、認めることができない。

3  その他、原告は、保護義務違反による債務不履行の主張をする。

しかし、原告と被告が継続的取引関係にあることをもって直ちに原告が主張するような保護義務が生じるとはいえない上、森口は、本件保険契約及び本件立替払契約締結当時、原告の大阪営業所の所長代理であったから、被告としては、森口がフラワープランを実施する以上、それは原告の内部で正式に承認された適切なものであると信じるのが通常である状況にあったことに照らせば、被告には、原告の本社等に直接、森口が言っているフラワープランが原告社内で承認されているものかどうかなどについて尋ねて、契約者貸付けを行ってよいかどうか確認する義務はないものというべきである。

したがって、原告の債務不履行の主張は、認めることができない。

四  争点3(不法行為)について

1  原告は、小川及び木岡が、違法・不当な保険契約を締結したことをもって不法行為があると主張するが、前記三1記載のとおり、小川及び木岡が原告に対して有効かつ適正な保険契約を締結すべき義務を負っていたとは認められず、これは、不法行為を基礎付ける注意義務の存否を検討する場合にも同様である。したがって、小川及び木岡には、原告に対する関係で、適法、適正な保険契約を締結する注意義務は認められないというべきであり、原告の右主張は採用できない。

2  原告は、小川及び木岡が無断で契約者貸付けをして、質権設定による債権保全の機会を奪い、さらに、保険契約者の資力が不十分であることを知りながら、原告に事前に通知する義務を怠ったとして、不法行為を主張するが、フラワープランは、原告の立替金債権を不動産担保により保全するという仕組みであること、原告が保険契約者に対して保険料を立て替えるかどうかは、本来原告が保険契約者の資力を判断して行うべきものであることなどからすると、小川及び木岡に右のような義務を認めることはできず、原告の右主張は採用できない。

なお、森口は、小川及び木岡に対し、不動産担保を設定できるまでは、契約者貸付けをしないで欲しい旨の依頼をした旨証言しているが、森口の証言を前提にしても、森口が右のような依頼をしたのは、本件保険契約が締結されてから二〇日ないし一か月近く経ってからのことであって、既に本件契約者貸付けが実行された後のことであるから、小川及び木岡が、森口(原告)の求めに反して穂高建設に対する契約者貸付けを実行したとはいえない。

3  原告は、森口に原告に対する不正行為ないし背任行為があり、小川及び木岡は、森口の不正行為を知っていたか又は知り得べきであったので、故意又は過失があった旨主張する。

そこで検討するに、前記認定事実4によれば、森口は、本件立替払契約について、フラワープランの場合に必要とされていた原告内部の個別申請を行わず、その上、ニッサンパックローンにおいて必要とされていた原告の決裁手続も経ないで立替払を実行したことが認められ、右事実によれば、森口がした本件立替払契約の締結は、原告に対する関係において、背任行為ないし不正行為であるということができる。

しかしながら、本件全証拠によるも、小川及び木岡において、右森口の不正行為を知っていたこと又は知り得べきであったことを認めることはできない。

たしかに、前記認定事実によれば、小川及び木岡は、本件保険契約が超過保険であることを認識していたものと認められる。

しかしながら、本件保険契約が超過保険となったのは、本件が、実質的には被告の契約者貸付制度を利用した原告の穂高建設に対する融資であることから、付保物件の評価金額を高額にする必要があったことによるものである。そのことの当否は別としても、超過保険か否かは、保険契約の内容に関わる事柄であって、森口の原告に対する不正行為をうかがわせる事情とはならない。

また、原告は、小川及び木岡は、森口がニッサンパックローン契約書を受領してから短期間で多額の金員が立替払いされたことを知っていたから、森口の右背任行為を知っていたか、又は容易に知ることができた旨主張する。しかし、短期間で融資が実行される場合には、担当者である森口があらかじめ上司に報告して実質的な決裁手続を経て行うのが通常であるから、右、事情が存することをもって、小川及び木岡において、森口の右不正行為を疑わせるような事情であるということもできない。

したがって、小川及び木岡に森口の右不正行為ないし背任行為につき故意又は過失があったとの原告の主張は、採用することができない。

4  以上によれば、被告の使用者責任及び被告自身の不法行為を認めることはできないから、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

第四結論

よって、原告の被告に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧澤泉 裁判官 福島政幸 裁判官 加本牧子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!